「英語ができないので、ホテルの仕事は無理だと思っています」――宿泊業への転職相談で最も多い思い込みのひとつです。訪日客のニュースを見れば、そう感じるのも無理はありません。
しかし求人票を実際に集計すると、景色は違って見えます。トリジョブ掲載求人3,238件(2026年9月1日時点)のうち、応募要件で英語に言及する求人は450件、13.9%。つまり86.1%の求人は、英語を採用の条件にしていません。この記事では、職種別の実態、英語ができる場合の給与差、現場で本当に使うレベルまで、数字で整理します。
結論 ── 86.1%の求人は英語を求めていない
まず全体像です。応募要件(応募資格・歓迎要件の欄)に「英語」「English」「TOEIC」のいずれかが登場する求人は450件(13.9%)でした。
しかもこの450件の全てが「英語必須」ではありません。記載の多くは「日常会話レベルできれば尚可」「英語力を活かせます」といった歓迎要件で、なければ落ちるという書き方の求人は一部です。
この数字が示すのは、宿泊業の採用の本音です。深刻な人手不足の中で(人手不足の実態はこちら)、英語を必須条件にして応募者を絞る余裕は、大半の施設にありません。英語は「あれば強い武器」であって、入場券ではないのです。
職種別に見る英語要件
英語への言及率は職種で大きく違います。
| 職種 | 応募要件で英語に言及 |
|---|---|
| 支配人・マネジメント | 27.2% |
| 予約・営業・企画 | 24.2% |
| フロント・宿泊 | 22.1% |
| 料飲・レストラン | 14.6% |
| 仲居・客室係 | 4.7% |
| 調理 | 2.0% |
※ 2026年9月1日時点の集計。
ゲストとの接点が長い職種ほど言及率が高く、調理・清掃・施設管理など裏方の職種では英語はほぼ問われません。「英語が不安だが宿泊業で働きたい」なら、職種選びだけで悩みは消えます。職種ごとの仕事内容は職種一覧にまとめています。
支配人・マネジメントの言及率が最も高いのは、外資系・インバウンド比率の高い施設で、スタッフ管理や本部とのやり取りに英語が必要になるためです。
英語ができると給料は上がるのか
フロント・宿泊の求人で比較してみました。
| フロント・宿泊求人 | 月給下限の中央値 |
|---|---|
| 応募要件で英語に言及する求人(n=138) | 23.0万円 |
| 言及のない求人(n=511) | 約20.9万円 |
※ 月給表記のある求人のみ。2026年9月1日時点。
その差は約2万円。年収に直せば25万円前後の違いです。英語を要件に書く求人は、外資系ブランド、都市部のシティホテル、リゾートの高価格帯施設に偏っており、施設の単価がそのまま給与水準に反映されています。
つまり英語は「できないと働けない」ものではなく、働く施設の選択肢と給与レンジを一段引き上げるためのカードとして機能しています。
現場で実際に使う英語のレベル
「日常会話レベル」という表現は曖昧なので、現場の実際を書きます。フロントで使う英語の9割は、次のような定型場面です。
- チェックイン・チェックアウト(予約確認、支払い、部屋の説明)
- 施設案内(朝食会場、大浴場、Wi-Fi)
- 周辺案内(駅までの道、飲食店、観光地)
- 定番のリクエスト対応(タオル追加、荷物預かり、タクシー手配)
これらは中学英語の文法+業界の定型表現で成立します。逆に、複雑なクレームや返金の交渉、医療・警察が絡む対応は、英語力に関係なく上長へ引き継ぐのが標準の運用です。近年は翻訳アプリ・多言語タブレットを備える施設も増え、「一人で全部さばく」前提はなくなりつつあります。
TOEICは何点必要か
掲載求人でTOEICに触れるものは53件、そのうち具体的なスコアを指定するのは15件程度で、指定は600〜750点の範囲でした(2026年9月1日時点)。
つまり「ホテル業界はTOEIC◯点が相場」と言えるほどの母数がそもそもありません。実務上の目安を挙げるなら、
- 〜500点相当: 英語不問の求人で問題なし。定型表現を現場で覚えれば十分
- 600点前後: 「日常会話レベル歓迎」の求人に堂々と応募できる水準
- 700点以上+会話力: 外資系・高価格帯施設で給与交渉の材料になる水準
スコアより効くのは「接客の場面で口が動くか」です。履歴書にスコアを書くなら、面接で英語の接客場面を再現できる準備とセットにしてください。
訪日客の増加で何が変わるか
日本政府観光局(JNTO)の発表では、2025年の訪日外客数は4,268万人と過去最多を更新しました(推計値)。上位は韓国945.9万人、中国909.6万人、台湾676.4万人、米国330.6万人、香港251.7万人です。
ここから言えることは2つあります。
- 現場の外国語需要は今後も増える。 英語要件13.9%という現在の数字は、需要に対して低すぎる可能性が高く、語学ができる人材の希少価値は上がる方向です。
- 英語だけが外国語ではない。 訪日客の過半は東アジアからで、中国語・韓国語が使える人材を求める施設は確実に存在します。英語に自信がなくても、他言語が強みになる人はそれを前面に出すべきです。
旅館でも状況は同じで、インバウンドに舵を切った温泉地では語学人材の獲得が始まっています。旅館とホテルの働き方の違いはこちらの比較記事を参照してください。
働きながら英語を強みにする方法
英語力ゼロから始めるなら、順番はこうです。
- 英語不問の求人で入る ── 86.1%が該当します。入口で悩む必要はありません。
- 現場の定型表現を音で覚える ── チェックイン等の頻出20場面を暗唱できれば、現場の9割に対応できます。
- 海外ゲスト比率の高い施設へ移る ── 実践量が増えれば会話は伸びます。社内異動でも転職でも構いません。
- 語学を要件に書く求人へ挑む ── フロントなら月給中央値で約2万円のプレミアムが待っています。
語学は入社前に完成させるものではなく、入ってから磨いて単価を上げるスキルとして扱うのが、この業界での現実的な戦略です。
よくある質問
英語ができないとホテルで働けませんか?
働けます。掲載求人3,238件のうち、応募要件で英語に触れるのは450件(13.9%)で、86.1%の求人は英語を要件にしていません(2026年9月時点)。清掃・調理・施設管理など英語との接点が薄い職種も多く、フロントでも英語不問の施設は多数あります。「英語が不安だから応募できない」は、大半の求人には当てはまりません。
ホテルフロントにはTOEIC何点くらい必要ですか?
TOEICのスコアを指定する求人自体がごく少数です。掲載求人でスコアを明記するのは15件ほどで、指定がある場合は600〜750点でした。多くの求人は点数ではなく「日常会話レベル」「接客英語ができれば尚可」という書き方をしており、チェックイン・道案内などの定型のやり取りができるかが実質的な基準です。
英語ができると給料は上がりますか?
職種によっては差が出ています。フロント・宿泊の求人では、応募要件で英語に言及する求人の月給下限中央値が23.0万円で、言及のない求人(約20.9万円)より約2万円高い結果でした(2026年9月時点の集計)。外資系や海外ゲスト比率の高い施設ほど、語学を給与に反映する傾向があります。
接客で実際に使う英語はどのレベルですか?
大半は定型文の組み合わせです。チェックイン・チェックアウト、施設案内、周辺案内、会計、トラブルの一次対応が主な場面で、中学レベルの文法と接客特有の言い回しを覚えれば回り始めます。難しいクレームや契約に関わる説明は、上長や通訳ツールに引き継ぐ運用が一般的です。
英語以外の言語は評価されますか?
されます。2025年の訪日客の上位は韓国・中国・台湾・米国・香港で、東アジアの言語が使える人材は英語話者と同等以上に貴重な施設もあります。中国語・韓国語ができる場合は、応募時に必ず伝える価値があります。
英語の不安で宿泊業を諦めるのは、データで見るともったいない判断です。86.1%の求人は英語を求めておらず、英語はあとから武器に変えられます。まずは職種と施設を選ぶことから始めてください。




