「ホテル・旅館の給料は安い」とよく言われます。ですが、実際にいくらなのかを具体的な分布で示した記事はほとんどありません。公的統計は「宿泊業,飲食サービス業」という大きなくくりでしか出ておらず、飲食店の数字と混ざってしまうからです。
そこでこの記事では、トリジョブに掲載されている求人票そのものを集計しました。2026年8月29日時点の3,238件から、月給の分布、職種による差、地域による差、年間休日、手当の付き方を数字で確かめます。求人票を見比べるときに、自分がどのあたりの条件を見ているのかが分かるはずです。
この記事の数字の出どころ
先に、数字の前提をはっきりさせておきます。集計方法を書かない数字は信用できないからです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | トリジョブ掲載のホテル・旅館求人 3,238件 |
| 集計日 | 2026年8月29日 |
| 雇用形態の内訳 | 正社員 2,779件(85.8%)、契約社員 267件(8.2%)、記載なし 190件(5.9%) |
| 給与の抽出 | 「月給/◯円〜◯円」の表記から下限・上限を機械的に抽出(月給表記 2,782件) |
| 限界 | 求人票の記載内容であり、実際の支給額や労働実態ではない |
つまりこの記事の数字は「募集の入口で提示されている条件」です。入社後の昇給や、実際の残業実績は含みません。またアルバイト・パートの募集はほとんど含まれていないため、正社員として応募するときの相場として読んでください。
月給の分布 ── 中央値は22.0万円
月給表記のある2,782件について、提示額の下限と上限を集計した結果です。
| 指標 | 下限額 | 上限額 |
|---|---|---|
| 第1四分位 | 200,000円 | 240,000円 |
| 中央値 | 220,000円 | 280,000円 |
| 第3四分位 | 250,000円 | 350,000円 |
下限額の分布はこうなります。
| 月給下限 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 16万円台 | 231件 | 8.3% |
| 18万円台 | 444件 | 16.0% |
| 20万円台 | 677件 | 24.3% |
| 22万円台 | 543件 | 19.5% |
| 24万円台 | 395件 | 14.2% |
| 26万〜33万円台 | 340件 | 12.2% |
| 34万円以上 | 152件 | 5.5% |
読み取れることは3つあります。
第一に、中央値は22.0万円です。「ホテルの初任給は20万円前後」という肌感覚は、おおむね正しいことが数字で確認できます。
第二に、24.3%が20万円未満から始まります。4件に1件です。これは目をそらすべき数字ではありません。ただし、この層には寮完備・賄いつきの地方リゾートが多く含まれます。額面の低さと生活コストの低さがセットになっている求人です。
第三に、上位2割は26万円以上を提示しています。都市部のシティホテル、外資系、そして支配人・マネジメント職です。同じ「ホテルの求人」でも、入口の時点で10万円以上の開きがあります。
なお、年俸制の求人264件は中央値420万円(第1四分位350万円、第3四分位500万円)、時給制の181件は中央値1,100円でした。
職種で5万円変わる
同じ宿泊業でも、職種によって提示額は変わります。求人タイトルから職種を推定して集計しました。
| 職種 | 掲載件数 | 月給下限の中央値 |
|---|---|---|
| 支配人・マネジメント | 353件 | 250,100円 |
| 予約・営業・企画 | 120件 | 230,000円 |
| 調理 | 906件 | 220,000円 |
| 料飲・レストラン | 713件 | 220,000円 |
| 管理部門(人事・経理等) | 73件 | 220,000円 |
| フロント・宿泊 | 757件 | 210,000円 |
| 施設管理・設備 | 69件 | 205,000円 |
| 仲居・客室係 | 85件 | 200,000円 |
| 清掃・ハウスキーピング | 38件 | 200,000円 |
※ 職種は求人タイトルからの推定。中央値は各職種のうち月給表記のある求人(合計2,782件)から算出しています。
最も高い支配人・マネジメントと、最も低い仲居・客室係・清掃の差は月5万円、年間で60万円です。
注目したいのはフロントの位置づけです。求人数は757件と多く、宿泊業の顔とも言える職種ですが、月給下限の中央値は21.0万円で全体の中央値を下回ります。未経験から入りやすい職種であることの裏返しでもあります。
一方、フロントの仕事から予約・レベニュー管理や支配人へ進むと水準が上がる構造も、この表から読み取れます。入口の金額ではなく、その職種から次にどこへ行けるかで選ぶ意味がここにあります。
地域で4万円変わる
掲載件数が25件以上ある都道府県について、月給下限の中央値を並べました。
| 都道府県 | 掲載件数 | 月給下限の中央値 |
|---|---|---|
| 東京都 | 365件 | 236,500円 |
| 千葉県 | 124件 | 235,000円 |
| 神奈川県 | 164件 | 230,000円 |
| 京都府 | 157件 | 230,000円 |
| 大阪府 | 118件 | 230,000円 |
| 長野県 | 187件 | 220,000円 |
| 静岡県 | 157件 | 220,000円 |
| 石川県 | 81件 | 220,000円 |
| 北海道 | 291件 | 214,250円 |
| 愛知県 | 74件 | 210,000円 |
| 沖縄県 | 185件 | 200,000円 |
| 福岡県 | 89件 | 200,000円 |
| 福島県 | 68件 | 198,250円 |
※ 掲載件数は全求人、中央値はそのうち月給表記のある求人から算出しています。
東京と福島では月約3.8万円、年間で46万円の差があります。
ただしこの差をそのまま生活水準の差と読むのは誤りです。沖縄・長野・北海道といった観光地は寮つき求人の比率が高く、家賃と通勤費がかかりません。東京で月23.6万円・家賃8万円と、沖縄で月20.0万円・寮費1万円では、手元に残る金額は後者のほうが多くなります。
この構造は住み込み求人のガイドで詳しく整理しています。地方の求人を額面だけで切り捨てないでください。
見落とされる「年間休日」
給与額と同じくらい条件を左右するのに、比較されにくいのが年間休日です。
年間休日の日数を明記していた求人は2,179件、全体の67.3%にとどまりました。3件に1件は書いていません。
記載のある2,179件の分布はこうなります。
| 年間休日 | 割合 |
|---|---|
| 99日以下 | 12.0% |
| 100〜104日 | 9.5% |
| 105〜109日 | 51.8% |
| 110〜114日 | 9.2% |
| 115〜119日 | 5.4% |
| 120日以上 | 12.2% |
中央値は107日。半数以上が105〜109日に集中しています。そして21.5%は105日未満です。
年間休日105日は、週休2日をぎりぎり確保できるかどうかの水準です。ここを下回る求人は、変形労働時間制のもとで繁忙期に休みが寄せられている可能性が高くなります。
残業と手当をどう読むか
残業時間の月平均を書いていた求人は570件、全体の17.6%だけでした。8割以上の求人は残業について具体的な数字を出していません。
記載のある570件では中央値が月20時間、62.1%が20時間以下でした。ただしこれは「書ける水準だから書いている」求人である可能性が高く、全体の実態を代表しているとは言えません。記載がないこと自体が確認すべきサインだと考えてください。
手当・福利厚生の記載率は次のとおりです。
| 項目 | 記載率 |
|---|---|
| 社会保険完備 | 91.6% |
| 寮・社宅 | 33.1%(住宅補助等を含めると49.8%) |
| 退職金 | 23.0% |
| 資格取得支援 | 18.7% |
| 制服貸与 | 16.7% |
| 賄い・食事補助 | 13.9% |
| 従業員宿泊優待 | 6.2% |
退職金の記載が23.0%しかない点は見落とされがちです。長く働くつもりなら、生涯賃金に効く差になります。
また、寮・社宅つきの求人では税の扱いにも注意が必要です。国税庁の基準では、従業員から賃貸料相当額の50%以上を徴収していれば給与課税されません。逆に「寮費無料」の場合、現物給与として課税され手取りが変わることがあります。
公的統計との差の読み方
厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、「宿泊業,飲食サービス業」の平均賃金は月額27万円前後で、全産業平均を下回ります。
この27万円と、今回集計した下限中央値22.0万円は矛盾しません。前者はすでに働いている人の実際の賃金(勤続年数の長い人を含む)、後者はこれから入る人への提示額の下限だからです。
2つを重ねると、次のように読めます。
- 入口は月20万〜22万円あたり
- 経験を積むと月27万円前後に近づく
- 支配人・マネジメント層で月25万円以上の提示から始まる
つまり、入社時の額面が低いこと自体は業界の構造であり、その後どう上がるかは施設の昇給・登用の仕組みしだいです。求人票で見るべきは金額そのものより、昇給の実績と役職への道筋ということになります。
求人票で確認する6項目
ここまでの数字を踏まえて、応募前に確認すべき点をまとめます。
- 月給の内訳(基本給、固定残業代の時間数と金額、各種手当)
- 年間休日の日数。記載がなければ面接で必ず聞く
- 残業の月平均時間。記載がない求人が8割なので、聞くのが前提
- 寮・社宅の有無と寮費、光熱費・食費が別途かどうか
- 昇給の実績と、役職への登用ルート
- 退職金制度の有無(記載は23.0%だけ)
とくに「月給◯万円〜◯万円」と幅がある求人では、自分がどちらの端に近い提示になるかを面接で確認してください。上限額は経験者向けであることがほとんどです。
聞き方や、そもそも面接で条件を確認してよいのかについては、面接ガイドで具体的な言い回しまで整理しています。
よくある質問
ホテルの給料は本当に安いのですか?
求人票の提示額で見ると、全産業の平均より低い水準にあるのは事実です。掲載求人2,782件の月給下限は中央値22.0万円で、24.3%は20万円未満から始まります。ただし寮・社宅や賄いで固定費が下がる求人が半数近くあり、額面だけでは手元に残る金額を比べられません。
未経験で入ると、どのくらいの月給になりますか?
求人票の下限額がそのまま未経験者の提示額になることが多く、目安は18万〜22万円です。経験者は上限側に近い額が提示されます。「月給18万円〜30万円」のような幅の広い求人では、面接で自分がどのあたりに位置するかを必ず確認してください。
年収を上げたい場合、どの方向に進むのが現実的ですか?
掲載求人では支配人・マネジメント職の月給下限中央値が25.0万円で、他職種より3万〜5万円高くなっています。現場職のまま昇給を狙うより、副支配人・マネージャーへの登用がある施設を選ぶか、都市部の施設に移るほうが金額の変化は大きくなります。
「月給25万円」と書いてあれば、手取りも25万円ですか?
違います。月給には固定残業代が含まれていることがあり、そこから社会保険料と税が引かれます。手取りは額面のおおむね75〜85%です。加えて寮費・食費が給与天引きの施設もあるため、求人票の内訳と天引き項目まで確認する必要があります。
夜勤があると、どのくらい増えますか?
22時から翌5時までの労働には、労働基準法第37条により25%以上の深夜割増賃金が必要です。時給換算1,400円の人が1回の夜勤で深夜帯に7時間入る場合、割増分だけで1回あたり約2,450円が加算されます。月に8回入れば2万円前後の差になります。
給料の話は、額面の1つの数字では決まりません。月給・年間休日・寮の有無・昇給の道筋、この4つをそろえて初めて比較できます。この記事の数字を手元に置いて、気になる求人を2〜3件並べて見比べるところから始めてみてください。




